過去の作品紹介 2018年度
2018年 12月例会『蜜柑とユウウツー茨木のり子異聞―』
戦後の女性詩人・茨木のり子の遺した一冊の詩集をめぐる、
一編の詩のような不思議な物語・・・
イントロダクション
詩人・茨木のり子が亡くなってから4か月後のある日。
主を失った家に、甥と生前彼女の死を出版してきた担当者が、残されているはずの未発表の原稿を探しにやってくる。
無人となった家の中を探し回る2人だが、実はこの家には彼らを複雑な思いで見守る先客がいた。
3人の「のり子」・・・茨木の魂・ノリコと、幽霊仲間の紀子(キイ子)と典子(てん子)。そして「管理人」を名乗る保(たもつ)。
彼らの魂を通して「茨木のり子」の人生とメッセージがよみがえる。
初演時の感想より
◆セリフが美しい。すごく重いテーマをさらりと入れてくる。それを役者さんが滑らかに表現する。舞台が一つの呼吸をしているようで、どんどん引き込まれました。
◆とても素敵でした。劇場の後ろにいたのに、コーヒーや蜜柑の香りまで漂って来たかのような気分になりました。最後には、ふわりと自然に涙が出てきました。帰ったら茨木のり子さん押しを読み返してみようと思います。
◆とても考えさせられてしまいました。ただ毎日を、割と楽しく過ごしていますが、社会のこと、自分の考えを表していくこと…ありがとうございました。
2018年 10月例会『再びこの地を踏まず 異説・野口英世物語』
立志伝中の人・野口英世
でも、実はハチャメチャ・トンデモ借金王だったって知ってた?
ものがたりにかえて…
‟野口英世”と聞くと、道徳の教科書で読んだ「苦学の人」「貧しい中から偉業をなした人物」というイメージや、映画で描かれた母・シカとの感動的な母子物語を思い出す方も多いかと思います。 しかし実は・・・
かつてノーベル賞に3度もノミネートされた医学者・野口英世。幼い頃左手に大やけどを負いながら、努力の末、世界的細菌学者になった軌跡は良く知られている。が、実は女遊びに明け暮れる大酒飲みでもあった。 その二面性を一つに結晶させる❝人間野口英世❞の評伝劇。 副題に「異説」とある通り、知られざる逸話を結ぶ。
前半、恩師の用立てた渡航費を蕩尽した後の場面がいい。呆れつつなお金策に走る恩師の愛、それを受けとめる英世の心。澄み切った精神は放蕩あればこそ、もたらされる。
台本は近代精神の躍動をとらえ、青春の光を放つ。その味ははじめ甘く、やがて苦い。過去の心の高さが現代の閉塞感を照らしだすからだ。 (日経・劇評より抜粋)
タイトルの「再びこの地を踏まず」というのは野口自身の決意の言葉だとか…、この舞台を見るとこれまでのイメージがガラッと変わるかも?
2018年6月例会『しあわせの雨傘』
旦那様でなくっても飾っておきたくなるような奥様
シュザンヌ(賀来千香子)の華やかな 変身物語!!
ものがたり
原題は『飾り壺』。中華料理店の入り口などによく飾ってある、奇麗で見栄えはするけど実用性のない大きな壺のことで、つまりは”お飾りの人“を揶揄して言う言葉だそうです。
賀来千香子さん演じるシュザンヌはまさにそんな有閑奥様、家族からも”飾り壺“扱いされていたのですが…‥
とある町の大きな傘工場の経営者婦人・シュザンヌは、メイドもいる専業主婦。子育ても終わり、ポエムづくりとジョギングが日課で、家事も仕事もしなくていいという"お飾りの妻”。
そんなある日、独善的な夫が傘工場のストライキで軟禁状態になってしまう。夫を解放させるために彼女がとった方法とは…?
華やかで知的な印象の賀来さんだからこその魅力があふれる、大人のフレンチコメディ♪
2018年4月例会『素劇 楢山節考』
一面の黒と白い線だけの空間に、あの山の全景を見たような気がする
不思議だ、総天然色の画が見える!
黒一色の舞台に黒い箱と白い箱。素朴・単純にして、より深く。
”素劇”ならではの魅力で、深沢文学『楢山節考』を鮮やかに描き出す。
あらすじに代へて
『楢山節考』は、深沢七郎の短編小説。1956年(昭和31年)42歳の時の処女作でベストセラーになった。
民間伝承の棄老伝説「姥捨伝説」を題材に、山梨県境川(現・笛吹市境川)に取材し創作した。それには、実母・さとじがガンを患い「自分の意志で餓死しよう」としていた壮絶な実体験があった。
・・・・・この村では、70歳になったら「楢山まいり」にいかなければならない。 山また山のこの村にとっては、食い扶持を増やしてはいけないのだった。 あと数日で正月を迎える日の深夜、おりんは息子辰平が担ぐ背板に乗り、楢山まいりの作法どおり誰にも見られないよう山に向かうのだった・・・・・
”楢山節”は、原作者・深沢氏の作詞・作曲である。深沢氏はギタリストでもあり、劇中で使用される音楽もギター伴奏で、その音色は実に効果的だ。
「棄老」というと「捨てられる」ことに目がいきがちだが、つまりは「どう生きるか」を描いた作品である。そして”楢山節”を通して”うた”が生まれる瞬間も描かれる。
※素劇とは・・・
素劇(すげき)は、演出家・関矢幸雄が提唱する表現様式。リアルな装置や修飾的な衣装・メイクは一切なく、素朴・単純ながらも豊かな遊び心で場面を作り出し、観客の想像力を喚起することによって物語の真意(ドラマ)を表現していく関矢演出独自の手法です。(公演チラシより)